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2022/05/06

監査法人では監査以外にもたくさんのサービスを提供しています。「アドバイザリー業務にも興味がある」「監査以外にもチャレンジしてみたい」と思っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。今回はその中でも人気のある、「IPO支援業務」について記事にすることにしました。

改めまして、公認会計士の近衛(このえ)と申します。初めての方はプロフィール、過去の記事について、ぜひこちらをご覧ください。

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私は2014年から2020年まで、日本の監査法人で働いておりました。また2022年からカリフォルニアのシリコンバレーにある監査法人で、会計アドバイザリー業務を行っています。特にアメリカに来てからは、西海岸を拠点とするテクノロジー企業、フィンテック企業、ヘルスケア企業のIPO支援業務に関与しており、最初に担当させて頂いたクライアントがニューヨーク証券取引所に上場することができました。実際に株式の売買が始まる朝、値動きを示すチャートが動き始めると達成感に包まれたのを覚えています。会計士として監査からキャリアをスタートしましたが、監査とはまた違った素晴らしいやりがいを感じることができましたので、ぜひ皆さんにも知って頂きたいと思い、記事にさせて頂くことにしました。今回はそのような私の経験をもとに、「監査法人でのIPO支援業務」について、皆さんにご紹介したいと思います。

今回の前提として、監査法人の中にあるアドバイザリー業務で会計士が行っているIPO支援業務を想定しています。FASやコンサルティングにおけるサービス内容とは異なりますのでご留意下さい。

IPOの概要

IPOとは、(新規)株式公開のことで、Initial Public Offeringを略してIPOと呼ばれています。ほとんどの企業は、数名の株主が出資することで始まりますが、その株式を証券取引所(株式市場)に上場させることで株主数を大幅に拡大させて、株式の市場での自由売買を可能にします。企業は株式が上場することにより資金調達が可能になると同時に、上場した瞬間に株式に市場価値が付くので、出資者たちは莫大な資産を得ることになります。

IPO支援のニーズは増えている!?

2008年のリーマンショック後、日本のIPOの件数は上昇しており、2021年には125社が上場企業の仲間入りを果たしています。そのため、後ほどご紹介するIPO支援業務のニーズもますます増えてきているといえるでしょう。

参考:Yahooニュースhttps://news.yahoo.co.jp/articles/8b210b49c85da507800f8c05d7b939995eb65cd2

ちなみにアメリカでは、2021年の1年間だけで951社が上場しています。毎週のように数十社のIPOがニュースで取り上げられており、経営者が証券取引所で取引開始のベルを鳴らしている写真はSNSなどでもよく目にするほどです。

アメリカで話題のスパック(SPAC)

2021年にアメリカでこれほどIPOがブームになったのは、スパック上場(SPAC)という形式のIPOが急増したことにあります。従来のIPOは事業を行っている企業の株式を上場させるものでした。新しい形式では、特別買収目的会社(Special Purpose Acquisition Company “SPAC”) という具体的な事業をまだ行っていない会社が上場し、その後の2年間で有望な事業を行っている会社を買収し2社を統合することによって、ターゲットとなった会社が上場を果たすというものです。2021年の951社の上場のうち、610件はこのSPACという形式での上場になりました。先ほど“新しい”と書きましたが、実はアメリカでは以前から認められていて法整備も進んでいます。2021年にこれほどSPACが盛んになったのは、SPACの方が従来のIPOより上場準備の負担が少ないことにもあるのですが、加えて、コロナの中でビジネスを伸ばしたテクノロジー企業たちが、アメリカの株式市場の好況が続くうちに上場しようと続々と上場準備を進めたということが背景にあるようです。

以上のように、IPO件数が伸びているということは、これに付随して会計士が提供しているサービスの需要も伸びているということになります。それでは、監査法人では実際にどのようなサービスをクライアントに提供しているのでしょうか。

監査法人におけるIPOアドバイザリー業務

IPO支援というと様々なサービスがあるのですが、監査法人で会計士が関与しているアドバイザリー業務は主に以下のサービスになると思います。

上場のための課題調査

IPOの準備過程において検討すべき課題を抽出するための調査を実施します。特に、新規監査を受けるための管理体制の整備状況や、財務諸表の残高の内容について調査を実施しすることになります。この調査の結果、把握された課題については、今後の改善のための方向性を確認するとともに、継続してフォローアップを行っていきます。

財務報告、決算開示のアドバイス

適正な財務報告・決算開示ができるように体制の整備に関するアドバイスや、会計方針・会計処理方法の明確化、決算業務の整備などに関するアドバイスを行います。最近の話題としては、新しい会計基準が導入されたことや、テクノロジー企業、フィンテック企業が増えてきたことによって、収益認識に関する会計相談がトピックになることが多いです。前例のないビジネスであったり、顧客とより複雑な取引をどのように収益に表現するかについて、会計基準やBig4が公表しているガイドラインに基づきながらクライアントと議論することになります。そのため、財務報告のアドバイスについては、専門的な会計知識や前職での業界経験がある方のニーズが特に高くなっているようです。

内部統制の整備、改善

上場後は内部統制についても監査を受けることになるため、適切な予算管理の実施に向けた体制整備や予実管理の具体的な方法、業績見通し・予算修正ルールの文書化などに係るアドバイスを行います。また、関連当事者等との取引やコーポレートガバナンスの整備に関する助言も行います。

上場申請書類の準備

これが最後の山場になるのですが、上場するには投資家や証券取引所の承認を得る必要があります。そこで、一連の申請書類の作成やレビューを行います。投資家や証券取引所への説明後には質問やコメントに応える必要があるのですが、その回答書や追加作成資料の作成のサポートも行います。

IPO支援のやりがい

IPOは会社のライフイベントとも言うべき記念すべき瞬間です。その大きな目標に向かい、自分の専門性を活かしてクライアントと二人三脚で働けることはとても素晴らしいことだと思っています。初めにも少しご紹介しましたが、会計アドバイザリーとしての初めてのクライアントがIPOすることができました。当日の朝、証券取引所が開いて値が付いた瞬間は、これまでのキャリアで味わったことのないような感動でした。ぜひ皆さんにもそのような体験をして頂きたいと思っています。

海外へ上場する日本企業

最近では、日本よりも資金調達額が大きい海外でのIPOを目指す起業家が増えてきています。特にアメリカでのIPOを検討するにあたっては、米国会計基準の専門知識が必要になってきますので、USCPAを活かすチャンスだと考えています。そのため、監査法人でのIPOアドバイザリーだけではなく、海外IPOを目指す事業会社への転職といったキャリアの選択肢も少しづつ出てくるのではないでしょうか。

まとめ

以下が監査法人のIPOアドバイザリーを理解するためのポイントです。
1.上場件数が増えている傾向にあるため、IPOアドバイザリーのニーズも高まっている
2.上場のための調査、決算開示アドバイス、内部統制の整備、上場申請書類の作成などが主な支援サービスである
3.今後はSPACや海外IPOといった支援サービスの多様化が考えられる

いかがでしたでしょうか。今回は監査法人でのIPO支援業務についてご紹介しました。

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Profile

近衛祐哉(このえ・ゆうや)
公認会計士、MBA(University of Southern California)

2008年筑波大学卒業。銀行で勤務した後、公認会計士試験合格。監査法人にて総合商社や外資系企業の監査に従事した後、ロンドン駐在。帰任後はロサンゼルスにMBA留学し、卒業後はシリコンバレーにある監査法人にてテクノロジー企業のIPO/SPACやM&Aにおける会計アドバイザリー、財務デューデリジェンスなどに従事している。