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2022/05/18

監査法人では監査以外にもたくさんのサービスを提供しています。「アドバイザリー業務にも興味がある」「監査以外にもチャレンジしてみたい」と思っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。今回はその中でも人気のある、「M&A関連業務」についてご紹介したいと思います。

改めまして、公認会計士の近衛(このえ)と申します。初めての方はプロフィール、過去の記事について、ぜひこちらをご覧ください。

「監査法人 – 海外勤務編 “海外派遣プログラムでグローバルに活躍してみませんか?」

「監査法人 – 海外勤務編② “志向に合った駐在国を選ぶには!?”」

「監査法人 – ワークライフバランス」

「監査法人 – IPO支援業務」

私は2014年から2020年まで、日本の監査法人で働いておりました。また2022年からカリフォルニアのシリコンバレーにある監査法人で、会計アドバイザリー業務を行っています。現在は、西海岸を拠点とするテクノロジー企業、フィンテック企業、ヘルスケア企業のIPO支援業務の他、M&Aにおける会計アドバイザリーにも関与しております。日本の監査法人で監査業務に携わっていた頃、担当していたクライアントが国内外で頻繁にM&Aを行っていたので、監査人の立場で数値の妥当性や開示の適切性を検証していました。そのためアメリカに来る前からM&Aアドバイザリーがどのような業務であるかは分かっていたのですが、実際に自分の担当業務となって初めて分かったこともありますし、他のグループファームとの業務の違いもクリアにすることができました。また、ファイナンシャル・アドバイザリーサービス(FAS)やコンサルティングファームで提供しているM&Aサービスについてはインターネットでも簡単に情報が得られるのですが、監査法人についてはあまり詳細な情報が出ていないかと思います。そのため、これからBig4など監査法人でのキャリアをご検討されている皆さんが、監査法人の中でどのようなキャリアチャンスがあるのかぜひ知って頂きたいと思い、記事にさせて頂くことにしました。今回は私の経験をもとに、「監査法人でのM&A業務」について、皆さんにご紹介したいと思います。

今回の前提として、監査法人の中にあるアドバイザリー業務で会計士が行っているM&A関連の業務を想定しています。FASやコンサルティングにおける各種M&Aサービスとは異なる場合がございますのでご留意下さい。

M&Aの概要

USCPAの学習などを通してご存じの方も多いと思いますが、M&A(エムアンドエー)とは『Mergers(合併)and Acquisitions(買収)』の略です。M&Aの意味は、企業の合併買収のことで、2つ以上の会社が一つになったり(合併)、ある会社が他の会社を買ったりすること(買収)です。また、M&Aの広義の意味として、企業の合併・買収だけでなく、提携までを含める場合もありますが、監査法人において提供しているサービスの中心は、合併と買収時における会計処理に関するものになります。

M&A関連業務のニーズは増えている!?

参考:ニュースカフェhttps://www.newscafe.ne.jp/article/2022/01/04/2683809.html

日本におけるM&A件数は2014年から右肩上がりで推移しており、2021年には4,000件以上のM&Aが行われています。件数が伸びているということは、これに付随して会計士が提供しているサービスの需要も増えているということになるのですが、監査法人では実際にどのようなサービスをクライアントに提供しているのでしょうか。

監査法人におけるM&A関連のアドバイザリー業務

M&Aについては様々なサービスがあるのですが、監査法人において会計士が関与しているアドバイザリー業務は主に以下のサービスになると思います。

PPA(取得原価の配分)のアドバイス

買収の金額や関連費用が決まると、これを対象会社の資産と負債に配分するプロセスが必要になります。これは、PPA(Purchase Price Allocation)と呼ばれています。買収金額は、対象会社が既に計上している資産・負債の金額だけでなく、その会社がもつブランドやトレードマーク、特許などが将来にわたって生み出すキャッシュ・フローの価値も見積もって決定されます。また、買収金額の中には、会計上の費用として取り扱われるものも含まれている場合があり、何に対して支払われた金額なのかを区別する必要があります。

アカウンティングメモの作成

M&Aに関する会計処理は論点が多く、クライアントによる判断や見積り項目を含む場合があり、財務諸表全体に与える金額的影響も大きいのが特徴です。そのため、多くの企業では一連の会計処理とその根拠となる事実や判断について、アカウンティングメモとして文書にまとめることが多いと思います。このような文書は、会計基準だけでなくBig4が発行しているガイダンスやロードマップに沿って作成されるため、文書のドラフトからコメント対応まで会計士に依頼されることがあります。

監査では、できあがったアカウンティングメモをレビューすることが多いのですが、アドバイザリーではゼロから情報を集めて作成していきます。また、クライアントの経理や財務担当の方とほぼ同じ立場で作業します。そのため、監査とは別の角度から得られる経験値があり、クライアント側がどのように投資の意思決定をしたかを知るチャンスでもあります。このように事業会社側で何が行われているか、深く入り込んで仕事ができる点がこの業務の醍醐味かと思います。

財務報告、開示資料の作成

M&Aは金額的にも質的にも重要なイベントですので、短信や四半期報告書、有価証券報告書などに記載されることが多いと思います。財務諸表にどのように表現すべきか、専門的なアドバイスをすることや、記載ページの全てを会計士が作成することもあります。監査においても検証対象となりますので、監査人からのコメントに対応する必要があります。

財務デューデリジェンス(財務DD)

財務デューデリジェンスは、M&A取引において、買収の対象会社または事業の財務についてその状況、リスク、課題を検討する調査です。一般に対象会社の収益・費用、資産・負債、キャッシュ・フローの分析を通じて、クライアントがより合理的に投資の意思決定ができるように情報の提供を行います。分析の際には、まずクライアントが特に気になっているポイントをディスカッションすることで作業スコープを明確にし、検証ではいくつかサンプルをとって証憑を確認したり、会計基準に照らした検討を行うことがあります。特に最近のトピックとしては、収益認識に関する会計基準が新しくなったことにより、新しい会計基準のもとで正しく収益が計上されているか、漏れている契約負債がないかが論点になっています。これらの点において監査と似ている部分がありますので、監査経験のある会計士が財務DDにアサインされることがあります。

財務DDでは、監査基準のような準拠法令が定められておりませんので、いつ何をどのように検証するかはプロジェクトやクライアントのリクエストごとに異なります。私が担当した時には、クライアントに途中報告を行った際に追加の検証アイディアをいくつか提示したことで、さらに個別のリスクにフォーカスした分析に変化していきました。このように、クライアントとのコミュニケーションや要望によってプロジェクトがフレキシブルに変化していくのがこの業務の面白さだと思います。また、よりクライアントに喜ばれる成果物になったという達成感も得ることができました。

この他にもポスト・マージャー・インテグレーション(PMI)と呼ばれる、M&A後の財務報告の統合プロセスを行うこともあるようです。私はまだ関与したことがありませんが、M&A実務の後半まで一気通貫してサービス提供ができるので、アドバイザリー業務の魅力の一つでもあると思います。

M&A業務のやりがい

M&Aは会社のライフイベントとも言うべき記念すべき瞬間で、投資家からも注目を集めることになります。一方で、日常的にM&Aに触れる機会はあまりありませんので、専門スキルを持つ人は限られていると思います。会計アドバイザリーの専門チームでは、短期間で多くのM&Aに関与しますので、自身の専門性を高めるチャンスといえるでしょう。

また、1つのプロジェクトは1、2か月といった短期間に集中して進むことが多く、完了後は自身の希望も踏まえて次のプロジェクトにアサインされることになりますので、様々なクライアントやチームと働いてみたい方に適しているかと思います。

一方で、週末や夜に稼働する場合もあります。プロジェクトが短期間ですので、期限に合わせるために、監査など他の業務よりも一日当たりの作業時間が長くなるケースがあるでしょう。

あるプロジェクトでは、当初は買収に対して非常に前向きだったクライアントが、私たちの財務DDの結果を見て、最後は買収を見合わせたというケースがありました。私は案件がなくなり残念に思っていましたが、クライアントが考えを変えるような重要な分析結果を提供できたという点では、専門家としてクライアントに貢献できたと思っています。

まとめ

以下が監査法人のM&Aアドバイザリーを理解するためのポイントです。
1.M&A件数が増えている傾向にあるため、会計アドバイザリーのニーズも高まっている
2.アカウンティングの専門家という立場から、財務DD、PPA、アカウンティングメモ、財務報告書の作成などが主なサービスである
3.専門スキルアップが期待できるが、働き方などの面で監査とは異なる場合がある

いかがでしたでしょうか。今回は監査法人でのM&Aアドバイザリー業務についてご紹介しました。

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Profile

近衛祐哉(このえ・ゆうや)
公認会計士、MBA(University of Southern California)

2008年筑波大学卒業。銀行で勤務した後、公認会計士試験合格。監査法人にて総合商社や外資系企業の監査に従事した後、ロンドン駐在。帰任後はロサンゼルスにMBA留学し、卒業後はシリコンバレーにある監査法人にてテクノロジー企業のIPO/SPACやM&Aにおける会計アドバイザリー、財務デューデリジェンスなどに従事している。